夫婦岩&イタコ渕とデバコ渕


国道254号線の本宿から右に折れて軽井沢方面へ向かい、矢川橋を過ぎると二つの岩が寄り添うように並ぶ「夫婦岩」とともに、清流に藍を溶いたような「イタコ渕とデバコ渕」の深い渕が現れる。

悲しき物語

昔この地にイチコという乙女が母と二人で侘び住まいをしていた。イチコはひなにも稀な美しき乙女で、気立ても優しく、母と子で平穏な日々を送っていた。ところがイチコが16歳のとき、母がふとしたことからあえなくこの世を去ってしまった。
一人になったイチコを嫁に、養女にと所望する人も多かったが、イチコは健気にも独りで田畑を耕し暮らしていた。
ある夏のこと、仕事に疲れたイチコがこの渕のほとりで休んでいた。聞こえるのはただ蝉の声とせせらぎの音ばかりであった。
独り水面を眺めて想いにふけるイチコの耳に、どこからともなく亡き母の「イチコ・・・イチコ・・・」という声が聞こえてきた。
はっと立ち上がったイチコは「お母さん」と一声叫ぶと、そのまま糸に引き込まれるように渕へ入っていき、深い渦の中に消えてしまった。
その後村人は、常日頃イチコが肌身離さず持っていた母の形見の手箱が、十数間離れた下の渕の波打ち際に打ち上げられたのを見つけて、イチコが身を投げたのを知った。
それ以来その二つの渕をイチコ渕、手箱渕と呼ぶようになったという。テバコが今ではデバコに訛って伝えられているのだと言う。

(昭和46年下仁田町史より抜粋)

そこに駐車して川へ降りる歩道がある。